ロールモデルになるような、各業界の第一線で活躍している方々をインタビューと年表で紹介するこのコーナー。第11回のゲストは、日本におけるVFXの第一人者で、映画監督や映像制作のほか多彩な事業を手がけている秋山貴彦さんです。

大学在学中にCG(コンピューター・グラフィックス)にひかれ、卒業後にCG業界に入ってからはコマーシャルや展示会用映像など数々のCG作品を手がけ、国際的な賞も受賞。『河童』『ACRI』『スピーシーズ4』などの映画でもVFXのスーパーバイザーを務め、『Final Fantasy』にもCGディレクター及びVFXアートディレクターとして関わり、その後、映画『HINOKIO』では自分で初監督。現在も映像制作を中心に多彩な活動をされています。秋山さんのこれまでの歩みについては、ぜひ年表をご覧ください。

今までやってきたことは、全部今やっていることにつながっている

現在のお仕事について教えてください。

やっていることが多すぎて、なかなか紹介しきれないんですけど、4Dブックスという電子出版をやろうとしています。それの第一弾として、もうすぐ「マルコと小さな兄弟」というiPad用電子絵本アプリを発売します。iPadが出たときに『アリス』っていう動く電子絵本で有名になったタイトルがあるんですけど、そんな感じの、指でさわるとインタラクティブに動く絵本をつくっていて、これは近日中に発売予定です。

◇ 4Dブックス

あと、ここに僕の人形がありますけど、ミードルといいます。頭の部分は写真を3D変換して、3Dプリンターというのでつくって、体はありもののGIジョーみたいなやつをくっつけているんですけど、写真に撮るとすごくリアルに見えるんですよ。このミードルや3Dプリンターを使った新しいフィギュアの流通を4Dトイズというブランドで事業化しようとしています。

◇ 4Dトイズ

あとは、IDE、イマーシブ・デジタル・エンターテイメントというまったく新しいエンターテイメントを創出しようという企画を進めていて、一番近いのはゲームなんですけど、現在のゲームよりもさらに発展した、いわゆるバーチャルリアリティの世界に人間が完全に入り込んでしまうような、そういうシステムを使って、コンテンツをつくる試みをしています。この前、IVRという3D&バーチャルリアリティの展示会を東京ビッグサイトでやったときにデモをやったんですけど、そのときにDiginfoっていうところの取材を受けた動画がYouTubeにアップされたら、3日間で10万ヒットを超えたんですよ。最近はテレビ取材も入るようになり、けっこう今注目を浴びはじめています。

◇ IDE

もう一つは、次世代のプラットフォームプロジェクトとして、インターネットを使った新しい制作の仕組みをつくろうとしていています。アメリカのベンチャーでウェモメディアという会社があって、そこが「the blu」という、海底の世界を表現する、いわゆるスクリーンセーバーみたいなものをつくっているんですけど、その中を泳ぐ魚をCGアーティストがつくれるんです。つくったCGデータをその会社に送ると、海底の中で泳がせることができて、その魚を他のユーザーが欲しかったら買えるんですよ。その買ったときのお金がクリエイターに還元される仕組みで、クリエイターが実際につくったものをプラットフォームをつかって売り買いする仕組みを、ネクストジェネレーションSNSみたいな形で展開しようとしているところに協力しています。それで最近、女子美術大学で短期的にプロジェクトコラボレーションという授業の非常勤講師をしまして、女子美の生徒たちにその魚のCGをつくらせるワークショップをやりました。「the blu」は、先日バンクーバーで行われたシーグラフでお披露目され、今年MITの所長に就任され話題になった伊藤穣一さんもファウンダーの一人として参加しています。

◇ the blu

あと、ハリウッド映画のビジュアルエフェクトなどの仕事を日本で受注するための仕組みをつくろうと動いています。それから、日本のビジュアルエフェクトの業界を発展させるためVFX-JAPANという協会をつくる準備もしています。すでに何度か、業界関係者からのヒアリング会をおこなっていて、10月には発足宣言をするイベントを行いました。実際に法人化するのは、2012年の春あたりを目指しているのですが、それまでにいくつかのイベントで世間知を広めていこうとしています。

◇ VFX-JAPAN
◇ http://www.facebook.com/vfx.japan

自分のやってきたことを振り返ってみて、今思うことは?

たぶん今まで僕がやってきたことは、実は僕が今やっていることに全部つながっていると思うんです。だから点と点を線でつないでいくと、基本的にはすべて自分がやってきたことが、今やっていること、そして未来にもある意味全部プラスとなるようにつながっているという気持ちでいつもやってますね。

ロールモデルにしている人はいますか?

僕はもともと最初に憧れた世界が特撮なので、その先人の方で、円谷英二さんとダグラス・トランブルさん、その二人はロールモデルにしていました。円谷英二さんは結局、晩年に暖めていた映画を撮る前に亡くなってしまったのですが、自分はそうなる前に撮ることができたのでラッキーでした。トランブルさんも、撮影中に人身事故を起こし、それ以来長らく映画監督業から離れてしまっています。そういう意味ではまた別のロールモデルを探さないといけないかなと思うんですけど。

あとは寺山修司さん。僕が映画をつくるきっかけをつくってくれた映画が寺山修司さんの映画なので、寺山さんにもけっこう影響を受けてますね。それから、岡本太郎さんの作品も小さいころから大好きでした。

小さいころに影響を受けた方はたくさんいますけど、大きくなるといろいろわかっちゃうじゃないですか。実はこの人はこういう人だったとか、ポロポロと出てきて。最近は情報があまりにも多すぎて、神格化された人物が出にくくなっていると思うんですよ。やっぱり人間だからどうしても聖も俗も兼ね備えているわけで、その俗の部分は生きていく上では避けられないじゃないですか。その俗の部分はあえて見ないほうがいいのかもしれませんね。

小さいころから憧れていた小説家の方にお会いしたら、当たり前なんですが、ただの人だとわかって神格化していたイメージが崩れてしまった経験があるので、あまり会わない方がいいかなと思ったこともあります。自分の中で神だと思っている人に会って、人間だとわかって神ではなくなってしまうというのはちょっとさみしいですよね。でもこれは本当に自分自身の思い込みなので、当のご本人には失礼な話だと思います。

それと今、新しいビジネスがどんどん出ていて、僕自身が今やっているような仕事も昔はありませんでした。だから、今流行っている職業をやっている人をロールモデルにしても、数年後にはどうなっているかわかりません。だから今、ロールモデルを探すのってけっこう難しいと思いますね。

現実を理解するためにバーチャルをやることが僕のテーマです

映画監督やCGの世界を目指す人にアドバイスするとしたら?

昔よりも希望を持ったり、憧れる人を持ったり、そういうことができにくい社会になっている気がするんですよ。さきほど言ったように情報が満ちあふれ過ぎていてロマンがないというか。だけどやっぱり生きていく上でそういうのってすごい大事だと思うんですよね。

今の世の中はなかなかそういう希望を持っている人とか、誰かに憧れを持っている人とか、これが絶対に好きだからやっているっていう人が少なくなっているような気がするんですよ、僕らの時代よりも。いい意味でも悪い意味でも情報社会が発達しすぎているから、選択肢がいっぱいありすぎて選べないというのはあると思います。それで自分のやりたいことが何かわからない若者が多いと思うんです。

もちろん今は僕らが小さいころとは違うので、自分の経験を一概にそのままあてはめられないですけど、でもやっぱり、自分が信じるものや好きなものを大切にすることが、生きていて気持ちいいので、それでちゃんと食べていけるようにしたいですね。そういう世の中をつくるのが我々の仕事であるし、逆に若い人たちにはそういう世界に希望を持ってほしいと思います。

そういう憧れなんかも、やっぱりどんどんバーチャルなものになっていくと思うし、バーチャルとリアルは僕のテーマで、ずっとそのテーマで作品をいろいろ作ってきているので、今後もそういうことをやっていきたいんです。なぜこだわるかというと、映画もテレビもみんなバーチャルで、バーチャルをやっていて何が楽しいかというと、それにおぼれるのではなくて、それをつくり出すことによって現実を理解するというか、現実を理解するためにバーチャルをやるというのが僕のテーマなんですよ。

たとえば、神様が自分を理解するために人間をつくったともいえるじゃないですか。人生とは何かと考えるときに、たとえば、映画を見ても瞬間的に人間の人生を2時間で見たと思えるときがありますよね。死ぬときに自分の人生を走馬灯のように思い浮かべるといいますけど、人が必ずつくれる映画というのは自分の人生じゃないですか。バーチャルでも現実を反映させたものを追求していくことによって、そこを突き抜けたところで現実に戻ってくると思うんですね。そこのダイナミズムが面白いなと思っているんです。

僕が寺山修司さんの映画を見たときに何を思ったかというと、虚構の世界から現実の世界に進入してくる圧倒的なメッセージがすごいなって思ったんですよ。これは虚構の世界なんだけど、現実に影響を与えている虚構であって、それは虚構なのかといったら、見ている人にとっては一つの現実なんです。だから映画を見ている観客も、映画はバーチャルだけど、その2時間というのはその人の体験であって、そのときに感じた何かの体験というのはやっぱり人生に組み込まれる現実じゃないですか。そんな現実に影響を与えるようなバーチャルの世界を今後も追及していきたいですね。
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秋山貴彦(映画監督/プロデューサー/コンテンツクリエイター) | 年表(自分史)創造コミュニティ Histy(ヒスティ)