ロールモデルになるような、各業界の第一線で活躍している方々をインタビューと年表で紹介するこのコーナー。第14回のゲストは、文化人類学が専門で、現在“ホストクラブ”について研究されているカンザス大学淮教授の竹山明子さんです。

高校時代にアメリカでホームステイをしたことがきっかけで日本脱出を考え始めたという竹山さん。短大を卒業して、保険会社に6年間勤めた後、オレゴン大学に留学。その後イリノイ大学に移って博士号を取り、カンザス大学で淮教授として教えてらっしゃいます。竹山さんのこれまでの歩みについては、ぜひ年表をご覧ください。

英語で教えるには開き直りが必要です

現在のお仕事は?

カンザス大学の人類学と女性学の両学部で、1学期に1クラスずつ教えています。英語で教えるのは本当に大変ですよ。日々悪戦苦闘ですね。でも幸いなのは、今までとても良い生徒に恵まれてきたことです。あとはちょっとした開き直りが必要ですね。グローバル化の今、アクセントがある英語も忍耐強く聞いて異文化コミュニケーションをはかれるのが真の国際人。それも含めて生徒にはいろいろと感じたり学んだりしてもらうんだと(笑)。教育の場とは実践の場であるべきだとね。クラスは大学生のみ、大学院生のみ、または両方ミックスした形式などいろいろです。大学院生の論文や就職活動のアドバイス・指導もしています。アドバイスしているのはだいたいジェンダー関係を専攻している学生ですね。

“ホストクラブ”の研究をしているそうですが、きっかけは?

博士課程に進むまでに女性学、男性学という流れで日本のジェンダー(性差・性役割)について見てきていたので、その両学問の交わる部分や、男らしさ・女らしさの生成とその変遷などを分析したいと思い、メンズエステに興味を持ちました。新しい「男らしさ」や美・健康意識がどう社会的に構築され、それがマーケットとどう連動し、そして男性客と女性エステティシャンにより実践されているかを見たいと思いました。でもメンズエステは個人情報を漏らせない世界で、実際にお客さんにインタビューしたり実践現場を見せてもらったりすることができませんでした。

メンズエステに行くのはどういう人だろうと考えたときに、ふとホストかなと思ったんですね。当時はホストクラブがメディアで取り上げられ人気を博していた時期だったので、そこに結びついたわけです。ホストクラブのオーナーの許可を得てフィールドワークを始めてみると、すごく奥が深くて面白そうだと思いました。たとえば、もともと西洋からの輸入コンセプトだった恋愛が、どのような歴史的変化をたどって現在の商業化に至ったんだろうとか、恋愛やデートにお金がかかるのは今や常識だけど、ホストクラブでの恋愛はお金が絡むから本物じゃないという一見矛盾した線引きにはどのようなロジックが潜むのだろうかとか。ホストクラブは愛と資本主義の親密な関係性や労働と消費の微妙な関係を考える上で、とても面白い研究対象だと思います。

研究を始めたのが2003年の夏。日本国際交流基金のフェローとして2004年8月から2005年の8月まで1年間日本に滞在してフィールドワークをして、2007年に博士論文を書き終え、2008年に博士号取得しました。日本学術振興会の支援をいただいて、2011年の夏からまた1年間の予定でホストクラブのフィールドワークと執筆活動のため日本に滞在しているところです。

人生で転機になったことは?

アメリカに留学したことも転機ですし、今日本に滞在していることも転機。そういう転機が集まって今に至っているので一つだけあげるのは難しいですけど、高校2年生でホームステイしたことは大きかったですね。父の友人でアメリカのロサンゼルスで駐在員をしていた家族のところに10日間ぐらいお世話になりました。渡航の手続きも今よりずっと大変でした。高校を1日休んで渡航用のビザを東京のアメリカ大使館へ取りに行ったのを覚えています。初めての海外で、それも単独渡航だったので言葉もよくわからず何が起きているのかもわからないような状況だったと記憶しています。でもアメリカのスケールの大きさと、見かけや肩書きだけで人を判断しない新鮮さを肌で感じました。

短大へ行ったのも、ホームステイの経験が大きかったと思います。4年間日本の大学に行っても「遊んでるだけ」というイメージがあったので、それだったら早く卒業してお金を貯めてアメリカの大学に3年編入をしようと思いました。そういう方法があることもたまたま飛行機で隣だった日本人から教わりました。渡米するにあたり日本社会に違和感があったというのもあります。日本はまだまだ男性中心の学歴社会。型にはまっていないと「変わり者」扱いしたり「女のくせに」とあしらったりする風潮から自分を解放したいと考えていた節もあったと思います。

消去法は、人生に後悔したくないから

逆境を乗り越えて成長した経験は?

アメリカで教えているときも、東洋人、女性、英語が第二言語という三つの壁があって、たとえば年配の白人男性の教授だったら遭遇しなくていいような問題を抱えることもあります。たとえば学生や他の教授に大学院生と勘違いされたり、学部生に「東洋人女性は優しいだろう」という先入観から無理を通そうとされたり。人種や性別、そして素行を簡単に変えることはできないので、なるべくぶれないような態度で先入観を払拭してもらうよう努めたり、授業を通じて先入観が人種問題や性差別と深い関わりがあることを題材に理解を求める努力をしたりしています。こうした経験を通じて国際社会における自分の立場をより深く理解できるようになったり、他の人の逆境についても考えるようになったりしました。

ロールモデルにしている人はいますか?

私、そういうのは一番苦手なんですよ。消去法で生きてきたので。こうなってはいけないという反面教師はいるんですけど、この人といえるロールモデルは特にないですね。モデルに完璧を求めてしまうのかもしれません。でもモデルはまったくないわけではないんですよ。イメージとしてはこの人のここ、あの人のあそこはぜひ見習いたいというロールモデルの部品みたいなものが引き出しの中に入っていて、状況に合わせて必要な部品をコーディネートして自分にあったモデルをその都度つくり上げるという感じです。

信条にしていることは?

消去法で残ったものを意味あるものにしていくという姿勢でしょうか?“消去法”というと聞こえが悪いですよね(笑)。なぜ消去法かというと、自分の人生選択で後悔したくないという思いがあるからだと思います。ある意味慎重なんです、きっと。わーっと勢いで選ぶと後から後悔するのではないかと恐れるんですよね。だから不必要なものを消去した上で、残った選択肢は私にとって本質といえるものだと信じてそれを「選ぶ」ようにしています。だから消去法とは私にとっては「本当に大切なもの」を見据える方法なんです。

自分の人生を振り返ってみて思うことは?

これまでひたすら目の前のハードルをひとつずつ乗り越えるのに精いっぱいだった気がします。いろいろな人、もの、できごととの出会い、そして様々な導きに改めて感謝したいと思います。そしてこれからは少しでも社会に役に立てることができるような人生にしていけたらうれしいです。そういう年齢に差し掛かってしまいましたから。

イノベーティブな知の枠組みを提供したい

将来の夢や目標は?

いまはまだ駆け出しの教授ですけど、今やるべきことを着実にこなしてそれが将来につながったらいいなと思います。目標としては社会人経験や日本人女性としての生まれ育った境遇などから生まれる独特な視点を利用した、あまり型にはまらないイノベーティブな分析研究、知の枠組み、方法論などを提供したいですね。そういう意味でも“ホストクラブ”はいいトピックだと思っています。様々な人の興味に訴求する題材だし、興味本位で読んでいただいて普段疑問視しなかったことを考え直すきっかけになってくれたらとてもうれしいです。つまり、“ホストクラブ現象”から大きな日本の社会経済の構造、都会という舞台装置、性の商品化、快楽という欲望を媒介とした自由という観念、主体のあり方、そして身体性について見えるようになったらいいですね。

海外留学したい人や研究職につきたい人にアドバイスするとしたら?

海外留学したい人の場合、海外留学は手段であって、目的ではないと思うんです。英語を話せるようになりたいというのは、何かをするための手段ではあっても、それを目的にしてしまうと行き詰まりを感じてしまうと思います。海外留学も、留学が目的になってしまうと、留学したことだけで満足してあとはどうしたらいいかわからないという状況に陥る可能性があるので、そこは気をつけないといけないですね。それをふまえた上であれば、新しい扉を開けていろいろなものに触れて体感するのはすごく勇気がいるけど自己成長につながると思います。

海外留学をしたい人、教授職を目指す人のどちらにも共通して言えるのは、どうして海外留学したいのか、どうして教授になりたいのか、自分との対話をまずはじめにやって、その上で実際に経験したことがある人に話を聞いて、自分が追求したいと思うことが海外留学や教授になることでできるかどうか判断することだと思います。こういうふうにしたら教授になれるとか、留学手続きを簡単にできるというテクニックはいろいろあると思いますが、その前に自問自答をすることが第一だと思います。

新しいことにチャレンジするには、心のよりどころとなる本当に信頼できる家族や友人を持つこともとても大切だと思います。そうした友人やパートナーはお互いに高めあえるし、苦しいときのよりどころにもなりますよね。心のつながりが大切だと思います。
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竹山明子(カンザス大学淮教授) | 年表(自分史)創造コミュニティ Histy(ヒスティ)